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この国には、無数のトライブ(部族)があります。 というわけで、今日は渋谷のルキスのお話。 あ、ちょっとその前に、 みなさんは自分の国に参加しているというか、この国の国民なんだというか、そういった実感てありますか? ここから書いていくのは、そんな実感というか、感覚器官すら持ち合わせていない、少し困ったさん達のお話です。 あ、国の定義は、まあ、また後で。 |
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六法全書って、知っていますか? 知っているようで知らないですよね。 法律って、大昔は貴族のものだったんですよね。 みんなが使えないように、口伝で伝承されていたりして。 でも法律が文章化されて、広く大衆のものになって、そして複雑化されていったんですけど、 本当は法律って、私達の生活のしかただったり、ルールだったり、もっと身近なもののはず。 でも、まるでゲテモノを煮詰めた魔女の鍋のよう。 いったい何が飛び出す事やら。 それに、いったい誰のものなんでしょうね。 少なくとも、この人のモノではないわwwww 渋谷のダンボール村が出来たのは、5年前。 もともとダンボール暮らしの人が居たのですが、そう名前が付いてからです。 渋谷のアブレ者の若者の中に、その村が出来ました。 そんな渋谷のアブレ者の若者の中、ひときわ目立つアブレ者がいました。 名は藤堂ミハエルさん。 このアブレ者のミハエルが渋谷の街を闊歩する姿はアッカン。 足にはローラーブレード。 赤銅色のマッチョの巨躯に、風変わりな羊の毛皮を縛りつけ街を疾走。それだけで目立ちます。 そんなアブレ者のミハエルさんのいる、渋谷ダンボール村に目をつけたのは、東京都の道路課の課長、佐々木さんです。 佐々木さんが新しく同課に配属になった田代さん以下7名をつれて渋谷ダンボール村に現れたのは、木枯らしのふく季節です。 路上占有者の、立ち退きの新人研修も兼ねてとの事ですけれど。 道路課職員:佐々木さん、墨田のあだ浪橋の件は聞いていますか 課の部下の一人が、目を輝かせながら言うと、他の同僚も耳をそばだてるような素振りをしました。 課の最大の関心事なだけに、敏腕の誉れ高い佐々木さんの意見をみんな聞きたがります。 佐々木:ああ聞いている、担当は高橋くんだったな 佐々木さんは少しと得意げにいいました。 道路課職員:ええ、高橋さんには気の毒なことで 課の大概の意見はそんなものです。 佐々木:確かに気の毒ではあるが、初手を間違えた観はあるな 道路課職員:初手といいますと 佐々木:まあ、元々あだ浪橋は問題のある橋だった。交通量もそこそこ多く、橋の下には水道や都市ガスといったライフラインも通っている。下に路上生活者を置いていていい橋ではなかった 道路課職員:高橋さんもそれで努力はしていましたけれども 佐々木:努力のしかたがねぇ、路上生活者は人だ。人様に向かって、バカだの死ねだの言っていいものではない 佐々木さんがそう言うと、何人かがくすくす笑いました。佐々木さんほど人を小バカにした人間も珍しいからです。 佐々木:君?、笑い事じゃないよ。最近のマスコミのやり方。君達も覚えておいたほうがいい。路上生活者に金を渡し、盗聴器やカメラ、あまつさえ生活者自身に隠しマイクを仕掛けるケースもある。そして我々の暴言を引き出し、面白おかしく記事にする。 道路課職員:高橋さんもそれでやられたんですね 佐々木:ああ、高橋くんはベテランだよ。交渉も粘り強いものだったと聞いている。変えの居住さきまで用意していたほどだ。しかし挑発に乗ってしまった。裏でマスコミが画策していたとしても、弁明できるものではない。そして結果はあれだ。路上生活者への暴言をタネにマスコミの集中攻撃、マスコミの対応に追われている最中に、最悪の事態が起こった。あだ浪橋下の路上生活者の煮炊きの火が、ダンボール住居に引火。その火事が橋下のガス管に引火、爆発、水道ガス電気のライフラインはめちゃくちゃ。我々は9千万からの補修費用と焼死した路上生活者2人の責任を問われるはめになった 道路課職員:しかし、改めて聞いても不幸としか 佐々木:不幸?君達はあの事故を、不幸な出来事と言うのかね。私に言わせればあれは初手のミスだ 道路課職員:あれをミスと言うにはちょっっと 職員の一人が言いました。 佐々木:ミスではないか。では思い違いだ。君達は私達の強みはなんだと思う?では田代くんに聞こうか 田代:えっとう、その 田代さんは困った顔をしました。 佐々木:新人の田代くんに聞くのは、少々意地が悪すぎたかな。では、誰か 佐々木さんはそう言うと後ろを振り向いた。もう現場近くです。 道路課職員:組織力です。都の組織力です 課の一人が言いました。 佐々木:んん、そうだな。組織力だ。それは一面の真理ではある。しかし私達の行う作業は、都の仕事の中でも、とりわけデリケートな問題を扱う事を忘れてはならない 佐々木さんは咳払いを一つ、手にした彼のトレードマークである六法全書を胸の辺りへ振り上げた。 佐々木:君達も憶えておきたまえ。ペンは剣よりも強し。これはペンよりも強しだ 佐々木さんはそう言うと、六法全書を強く握り締めました。 佐々木:我々の頼りとするところは法だ。それ以外にない 佐々木さんは法の信奉者です。 資産家の家に生まれた佐々木さんは、わりと早いうちに法を志しました。 大学在学中に司法試験も取得。しかし佐々木さんは、検事にも弁護士にもならず、東京都の道路課を志望しました。 法こそ人類の至宝、最強の力。佐々木さんの信条です。検察権も司法権も頼らず、法と自らの法解釈のみで、路上生活者を立ち退かせる佐々木さん流の同課の仕事は、佐々木さんの誇りを満足させるものでした。 実際、六法全書を持ち、路上生活者の前に現れる佐々木さんの姿は、その自信もあいまって、人を威圧するような雰囲気すら醸し出します。 佐々木:さ、行こうか。今日は田代くんもいる事だし、難易度の低い仕事だ 佐々木さんの片手間に片付けようとしている仕事は、わずか20ばかりのダンボール住居の撤去作業。渋谷ダンボール村の撤去でした。 佐々木さんは渋谷ダンボール村に着くと、 佐々木:あ〜、君? と、いつものように、演説まがいの説得に入ろうとしています。 住人:佐々木だ、佐々木が来た と集まってきたのは、ダンボール村の住人。 その中に風変わりな巨漢、藤堂ミハエルさんもいます。 佐々・・・・・ 佐々木さんは一瞬たじろぎましたが、手にした六法全書を握り締め、気を取り直すとまた口を開きだしました。 佐々木:君達はここに居ていいわけではない 佐々木さんがそういうと、やおらミハエルさんは手を伸ばし、六法全書をむんずと掴むと、 ミハエル:うまいのか と、一言。バリバリと六法全書を食べてしまいました。 佐々木さん御一行は呆気に取られ退散。 その日から、アブレ者のミハエルさんは、法律食い。または、 "法食いのミハエル" そう呼ばれるようになりました。 |